ピンポン / 松本大洋

ピンポン (1) (Big spirits comics special)
ストーリー star5
キャラ star5
絵の魅力 star5
演出 star5
個性 star5
中毒度 star5
おすすめ度
(総合)
star5

あらら。
一つ一つ冷静に採点してみたら、満点になってしまいました。そんなつもり無かったんだけどなあ。
まあこのブログ始めたばかりなので、自動的に大好きな作品からレビューしていくわけで、その辺は目をつぶって下さい。
今回のおすすめ漫画は松本大洋『ピンポン』です。全5巻。
言わずと知れた名作で、何年か前に映画化されたこともあり、連載時に比べて遙かに知名度は高まったはずだと思います。
が、
それでもまだ読んでいない人のために。

一応スポーツものですが、この松本大洋という作家は一筋縄ではいきません。
基本的にサブカルチックというか、前衛的な手法・表現に重きを置いたマンガ家だと思います。そして別にスポーツ漫画ばかりを描いているわけではなく、独特のSFな世界観を持っていて、そっち系の作品もあります。
さらに世界観(造形・デザイン)もそうですが、何と言っても絵のタッチが独特すぎて、それゆえ食わず嫌いな人も大勢いるかと思われます。
私が周囲にピンポンを押しまくってた10年前にも「絵がなんかイヤ」と言う人はたくさんいましたし、私もそいつらに「お前ら超不幸。最低。ダサすぎ」と訴え続けていたわけですが、まあ、そういうのは生理的なもんだからあれこれ言ってもしょうがなくて、問題は、松本大洋のすごさは特徴的なタッチではなく、「セリフ回し」にこそあるのだと、この場を借りて明言しておきます。

松本大洋は詩人である。
これは、彼の数々の作品を読んだ後で感じた結論です。
とにかく短いセンテンスのセリフの切れ味がものすごい。憧れます。憧れて自分もやろうと思うんだけど、できない。悔しい。
一例を挙げます。
孔文革という中国のエリート選手とコーチが屋上にいるシーン。
そこから見下ろせる体育館の中でスマイルとペコ(主人公)が打ち合っていて、風の音に混ざってかすかにその音が屋上まで聞こえてくるらしく、孔文革とコーチは耳を澄ませます。
どうも二人は打ち合いの音だけで内容を判断できるらしい。

孔「カットに比べると速攻のプレーはかなり雑だ」
コーチ「だけどカットも返すので精一杯といった感じだ。速攻の球に伸びがあるか…」
孔「いや、あの速攻、スピードあるけど逆にスキも多い」

孔「カットマンはわざと負けてるな」
コーチ「!?」

コーチ「なぜ?」
孔「さあね。お国柄なんじゃない?」

孔「とにかく中に入ろう」

孔「風の音がジャマだよ」

…どうでしょうか。セリフのみで伝わりましたでしょうか。最後のコマ、孔文革のバストアップがカッコよすぎなんですけど。
いや、誰がカッコいいということではありません。作品世界がカッコいいんですね。
この点だけでピンポンを読む価値はありますし、おなかもいっぱいになると思います。

ところがこの作品はオール5なので、他にも同じくらい素晴らしい要素があります。ていうか「セリフ回し」なんてものをピックアップすること自体、いろんな人に怒られそうな気がします。
やはり『ピンポン』と言えば物語です。
松本大洋のどの作品を見ても、ここまでストーリーの構成がしっかりしているものは他に見当たらないと思います。読ませる、楽しませる、泣かせる、前衛的なようでいて基本をしっかりと押さえているので、読者は安心して没頭できます。
さらに言うと、彼のストーリーテリングの素晴らしいところは、理想を描かないというところです。こうであったらいいのに、こうであったら楽なのに、都合がいいのに、そういった甘い要素は欠片も見えず、描かれる世界には鋭い悲哀と喜びが充満しています。
セリフと同じく、皮膚に突き刺さるような現実感です。
涙が出そうになります。

★ちょっとネタバレ★(クリックすると下に開きます)

特にエピローグで描かれる、明暗の分かれた世界には、どちらも甲乙付けがたい迫力があります。どちらが主役でどちらが脇役なのか、作者が描きたかったのはスマイルなのかペコなのか、私には判断が付きません。
最後の作者の目は恐ろしいほどに冷酷です。しかし冷酷ゆえにその視線はスマイルとペコを均等に照射し、「才能」というあまりに抽象的であり危険な言葉を、その本質を見事に描き切ることができたのだと思います。

以上、松本大洋が『ピンポン』で成し得たものは多岐にわたると思いますが、スポーツを扱った漫画の中で『ピンポン』は異端でありながらも間違いなくそのジャンルの金字塔であることを、私は自信を持って保証します。
熱血や根性、そして恋愛や事件性からも遠く離れたこの作品が、あらゆるスポーツ漫画の模範となるべき興奮と感動を備えている。
そのことに世の中はもっと驚愕するべきです。
世のマンガ家は刮目すべし。
そして世の読者は必読すべし。
この作品の発表から10年以上経った今も、強くそう思います。

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ピンポン

松本大洋が描く卓球というスポーツ!!
青春真っ只中の高校生・月本(スマイル)と星野(ペコ)が、冷たく、そしてカッコイイ“スポ根”の世界を駆ける!!

もう懐かしすぎて言葉で表せない…

2012/04/26 1:51 PM| nikkeの日記

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