自虐の詩 / 業田良家

【送料無料】自虐の詩(上巻)
ストーリー star5
キャラ star5
絵の魅力 star2
演出 star3
個性 star4
中毒度 star3
おすすめ度
(総合)
star4

実は、つい最近までこの作品のことを全く知りませんでした。
今回のおすすめ漫画は業田良家『自虐の詩』。私が買ったのは上下巻の文庫版。
なんかね、あっちこっちで「泣ける!」とか「号泣!」とかうるさかったので、何かを買うついでにカートに一緒に入れておいたんですが。
実際泣けたかと言うと、泣けませんでした。ていうか映画でもマンガでも「泣ける!」と聞いて泣いた試しがありません。泣ける泣けるって気にくわないんですよ。「泣ける!」って何だよと思います。「泣いた」という結果論ならいいんですけどね。予定調和の感動なんてクソ喰らえって思うんですが、まあいいです。
それよりも私は『自虐の詩』を読んで、久々に何か大切なものを思い出しましたよ。まるで壮大なハリウッド映画を見た後のように、読む前と読んだ後とでは、自分の日常が少し違って見えた。
これ、四コマのギャグマンガなのにね。不思議です。

このマンガは「週刊宝石」に連載されていた、いわゆる一般紙の隅っこにあるような四コマ漫画です。絵柄からして、ただの暇つぶしに読む以外何の値打ちもないように思えるんですが、おすすめ漫画としてここで取り上げるってことは、そうではないということです。
これ、すごいです。私は「ジャンル」と「内容」にこんな落差を見たことがありません。最初は本当に普通の四コマ、ギャグといっても別に笑えるわけでもなく、新聞の朝刊に載ってる「○○君」的なものでしか無いんですが、なんか途中から雰囲気が変わってきます。
雰囲気が変わると言っても、主人公の幸江とイサオがやってることは同じだし、絵のタッチも一緒だし、過去の回想が増えたくらいでそんなに変化は無いんですが、最終話付近のアレに至る準備が水面下で着々と進行しているようにも思えます。
思うに、丁寧なんですね。
主人公だけではなく、周りのキャラも含めて、作者が丁寧に追いかけて、丁寧に描いた結果だと思います。四コマですが、描けば描くほどキャラクターの厚みが増していったような気がします。

時代背景として、80年代に連載された漫画ですが、貧乏長屋で暮らしている人々の話です。旦那のイサオは無職で酒や博打にうつつをぬかし、金をせびり、気に入らなければちゃぶ台返しと、今やもうあまり見かけられなくなった古き時代のダメ男です。
一方、内縁の妻である幸江はそんなイサオの世話をしながらパートで働き、周囲から別れろ別れろと言われながらもつつましく暮らしている。
どうですか。この設定。
泣けるかどうかは、こういった世界を知っているかどうかだと思います。私は90年代キッズで豊かな時代に生まれたもんですから、貧しさとか忍耐とかそういうのは全然知らないわけで、時代が違います。
言い換えれば、この『自虐の詩』はそんな時代を正面から描いていると言えるでしょう。私などは逆に新鮮で、こういう時代、こういう暮らしがあったのかと興味深く読みましたが、リアルでこんな体験をしている人がこれを読むと、確かに心をえぐられる気持ちがするかも知れません。

ジャンルとしてはギャグマンガなんですが、私は一度も笑えませんでした(なので「笑える」のタグも付けてません)。ところが「つまらない」とはならない。どんどん読んでしまう。不思議なもんです。
タイトル『自虐の詩』の通り、主人公の貧乏話や不幸話が主なネタですが、それが嫌みではなく、暗くもない。
最終的にすばらしいオチを迎えるこの作品が「ギャグマンガ」である必要はあるのかと問われれば、私は「ある」と答えます。ギャグマンガだからこそ、これだけの不幸を重ねることができたのです。そしてこれだけの不幸を背負った人だからこそ、あのセリフが言えるのでしょう。

ネット書評やAmazonのレビューが無ければ、きっと私はこの作品を手に取ったり、中身を読んだりすることは無かったと思います。
第一印象と読後感がこれほどかけ離れている作品が、ここまで世間に評価されているのは素晴らしいことだと思います。私も微力ながらレビューを書きましたが、この作品が多くの人に読まれ、愛されることを願ってやみません。

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