ヒメアノ~ル / 古谷実

ストーリー star4
キャラ star5
絵の魅力 star3
演出 star3
個性 star5
中毒度 star4
おすすめ度
(総合)
star4

古谷実。マンガを作者で読むような人ならすぐにこの名前にピンとくるはず。
そうです。この方は『行け!稲中卓球部』『僕といっしょ』『グリーンヒル』の作者さんです。
稲中などに関してはもはや説明不要だと思いますが、近年まれにみるハイレベルなギャグマンガとして名を馳せた作品です。私などは高校時代に後ろの席から回ってきた稲中4巻に笑いをこらえきれず、授業中に爆笑してしまって先生に見つかったという思い出があったりします。

さてその古谷先生ですが、なぜか『グリーンヒル』を最後にお笑いの世界から身を引いてしまいます。その次に発表された『ヒミズ』では笑いの要素はすっかり影を潜め、かわりに純文学風・現代風の病んだ社会を淡々と描く方向に大きくシフトチェンジしました。
思えば、そういう素養はあったように思います。『僕といっしょ』でも『グリーンヒル』でも、ただのギャグマンガというよりは、ある程度社会に根ざした登場人物たちが「リアル」なバックグラウンドを背負って生きている、という姿が描かれていました。
『ヒミズ』以降、作者はその「リアル」を「殺人」に代表される局地的な心理状態まで昇華させます。その世界はもはや純文学と言っても過言ではありません。
いや実際、その辺はかつて純文学が担っていたエリアだと思うんです。狂気を描くというのは。でも今の純文学が衰退してしまっているので、その役割がマンガ家に回ってきたと。
それを自覚してかどうかは分かりませんが、古谷実はそのシリアス路線を立て続けに何作も発表します。『ヒミズ』『シガテラ』『わにとかげぎす』、そして今回取り上げる『ヒメアノ~ル』。
あ、やっと本題に入れそう。

『ヒメアノ~ル』はシリアス路線の4作目ということですが、実はこれまでの作品はどれも似たような設定で、主人公の外見こそ違うものの、ほとんど連作と言ってもいいくらい同じ匂いがするものでした。そしてまた今回も同じような設定なんですが、読後、4作目にして、ようやくこの路線で一つの何かを描き切ったな、と思わせられました。
正直、今までの作品は明らかに習作だったわけです。
この作者、笑いのセンスほど、シリアスを描くセンスは無いようで、『ヒミズ』以降はその不得手な分野に果敢にチャレンジし続けた軌跡であったように思います。
で、私もそれを見守るようにコミックスを買い続けてきたわけですが、本作でやっと「あ、描けたな」と思ったんでした。

なのでこの作品は読む価値があります。古谷実が描いたシリアスサスペンス文学。最後のあの見開きシーンは圧巻です。本作を読むかどうしようか迷ってる人がいたら、僕は間違いなく「読め」と勧めます。
しかしながら、この煮え切らない点数からお分かりの通り、ベストではないことも確かです。ベストではないというのは、古谷実のベストという意味ではなく、シリアスサスペンス文学のベストではないということ。
むしろ古谷実は本作でベストを尽くしたように思います。
しかし、このジャンルにおいてはもっと上手く描ける人が他にいるのです。
才能ってのは難しいもんです。

とは言え、古谷ワールドにおけるシリアス作品という意味では、充分な値打ちがあります。作者の絵のタッチが好きで、セリフ回しや演出が好きな人にとっては、確実に満足できる作品だと思いますよ。
もちろん、私もその一人です。

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